紙芝居の歴史は古く(平安時代から?)、現代まで様々な変遷を経て受け継がれてきた伝統ある芸能です。そのため、紙芝居について生半可なことは言えませんが、ここでは「紙芝居のおじさん」と呼ばれる多くの人たちが自転車で街を走り回って活躍していた昭和の時代、なかでも私が実際に見て記憶にある昭和半ばの紙芝居に限定し、ビジネス視点で考えてみます。
そもそも「紙芝居のおじさん」を知らない若い方もいらっしゃるかもしれませんので解説しますと、紙芝居のおじさんはどこからともなく近所の空き地に自転車でやって来て、拍子木を打つなどして子供たちを集めます。そして自転車の周りに集まった10~20人くらいの子供に対しておじさんは紙芝居を講談師のように演じてくれます。
紙芝居のおじさんの強みは何かと言えば、それはもう「紙芝居を観る子供たちを引き込む迫力ある講演力」と言えます。
ところがこのプロの紙芝居講談師とも言える紙芝居のおじさんたちは、講演料を徴収しませんので、子供たちはタダで紙芝居を楽しむことができます。
それでは紙芝居のおじさんはどこで儲けているのでしょうか。
それは(ご存知の方が多くて取り上げるほどではないかもしれませんが)、紙芝居の講演前後に色々なお菓子を注文に応じて販売することにより収益を上げています。自転車後部に、例えば水飴とせんべいなどのお菓子が入った引出し付きの木箱が備わっており、新幹線のワゴンサービスのような感じのサービスを提供してくれます。紙芝居を観てもお菓子を買うのは強制されませんが、たいてい数人はお菓子を買っていました。
すなわち、紙芝居のおじさんは、自分の強みである紙芝居の講演で子供を集め、これを餌に集まった子供相手にお菓子を販売して儲けていたということです。
これは、クリス・アンダーソン氏の著書「フリー」で提唱された有名なフリーミアムにも関係してきます。紙芝居の講演という無料サービスで子供たちの気を引き、集まった子供たちの中の数人(アンダーソン氏が言う経験値では5%)がお菓子を買うことによりビジネスを成立させているということです。
紙芝居のおじさんの場合は、講演力という自分の強みで顧客の気を引くための無料サービスを提供しているわけですので、自分の強みとなるものから直接対価を得ているわけではありません。自分の強みを活かしながらビジネスのしくみの中の別の方法で収益を上げています。
フリーミアムはネットの活用が前提であるとアンダーソン氏は述べています。たしかに紙芝居のおじさんはネットを活用していませんでしたので、接する子供の数には限りがあり儲けは少なかったかもしれません(でも子供たちから絶賛される誇りある人生だったと思います)
ビジネス視点で学びたい大切なポイントとしては、事業や商品を考える際に、自分や自社にとって強みのあるところばかりに目が行きがちですが、それとは別のところであっても儲けにつながる方法はないか知恵を絞りたいものです。
蛇足になりますが、この紙芝居のおじさんが演じる紙芝居、いつも話が面白くなってきた頃に「今日はこれでおしまい、この続きはまた今度」と、あと少しと言う所で完結しないことが多く、次また見たいと思わせるところもビジネス上手ですね。