デンソーがマスクを作るんだって!? 「範囲の経済」から新商品開発について考えてみた

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経営や経済の用語で「規模の経済」とか「範囲の経済」というのを時々耳にします。

前者の「規模の経済(economies of scale)」とは、モノを大量に作れば作るほど生産コストが安くなり儲け的に優位になることを言います。規模(scale)という言葉から直観的に理解しやすい用語です。

補足すると、生産に必要なコストには変動費と固定費があり、固定費の方は生産数が増えれば1個あたりのコストは(固定費全体を生産数n個で割るので)安くなるということです。

これに対して「範囲の経済(economies of scope)」」は、直観的にわかりにくい用語だと思います。この用語を最初に日本に紹介された方が「scope」を「範囲」と翻訳したのかもしれません。

「範囲の経済」とは、社内のリソース(人、技術、ノウハウ、設備など)を他事業と共有化することで、事業単独よりも複数事業でコストメリットを得ることを指します。

ところで2020年4月7日の日本経済新聞などによると、新型コロナウィルス感染症の拡大抑制を支援するために、デンソーおよびトヨタ紡織がなんと「マスク」を生産するとのことで、「デンソーは製造現場を中心に社内で必要となるマスクの4月中の生産を目指しており、日当たり10万枚の生産を目標とする」と報じられています。

世間ではマスクの入手困難が続いていますので、社内自給自足用の生産とはいえ今回のような大量のマスクの生産を短期間で実現するというのは、社会的なマスク不足への解消に貢献する気のきいた取り組みですね。マスク生産に取り組まれている皆様にエールを送りたいと思います。

普通に考えると、デンソーもトヨタ紡織も自動車関連のシステムや製品を開発生産している会社ですので、マスクの生産は一見意外な印象を受けますが、自動車のエアーフィルタなどフィルタ製品を扱っていることから、これらの関連分野に詳しい人たちがいて、実験設備や生産設備を持っており、マスク生産の準備が短期間でできるのだと思われます。

今回のマスク生産は供給不足に貢献するためのもので、儲けることをめざしたものではありません。そのため、複数事業でコストメリットを追求する「範囲の経済」の事例そのものとは言えませんが、社内のリソースを活用して新しい商品を作ろうとしている点は、新しい商品や事業を考える際の参考になります。

今の事業領域とは異なるけれども、新しい商品や事業の実現のために活用できるリソースはそういった着眼点で見直してみると、みなさんの周囲に結構ころがっているかもしれません。