「イノベーション」と「技術革新」は同義語ではないと、多くの識者が繰り返して指摘しています。
私もそう認識していますが企業内研修の講義後、若手技術者から「イノベーションとは技術革新ではないことを初めて知り大変勉強になりました」といった声を聞くことが今だによくあります。間違いに気づいて正しい認識を持ってもらえてよかったと思う一方で、本来の「イノベーション」の意味と異なるニュアンスの「技術革新」という訳語が広く普及していることに驚かされます。
「イノベーション」と「技術革新」が同義語であるとの思い込みが、本来の意味である「新しいことを考えて社会に普及させること」の妨げとなっているのではないかと憂慮しています。
そんな中、2019 年2 月のNHKスペシャルにノーベル化学賞を2002年に受賞された田中耕一氏が登場しイノベーションについて語っておられました。
番組では、2018 年に科学雑誌「ネイチャー」に掲載された論文で再度世界的な注目を集めるまでの16 年に及ぶ様々な苦労の末(苦闘と言った方がよいかもしれません)、血液一滴で病気を早期発見できる可能性のある分析技術で今回も社会に大きく貢献しようとしている様子を紹介していました。
その田中耕一さんが番組の中でイノベーションについて次のようにお話されていました。
「もともとイノベーションの日本語訳は『技術革新』ではなく『新結合』、あるいは『新しい捉え方』とか『解釈』です。いろいろな分野の方々が集まって新しく結合する、新しい解釈をすることがイノベーションなわけです。失敗と思われることも、別の分野ではすごい発見になるかもしれない。もう少し柔軟に、広く解釈すれば、イノベーションはもっとたやすくできると思います。イノベーションを実際にやっている人も、単にくっつけただけじゃないかと思って、自分自身を低く評価している。そういった人たちに、もっと気楽に考えようよ、意外と簡単にできるよと伝えたい。」
技術、対人関係、マネジメントなどの多方面で大変苦労されながら、本当に実践されてきた田中耕一さんご自身から発せられたこのようなお言葉には重みがあり大変感銘を受けました。
みなさんも肩ひじをはらず少し気楽な気持ちで、社会に役立つことを普及できるよう考えてみてはいかがでしょうか。
〔田中耕一氏コメントの出所〕
『 NHKスペシャル 平成史スクープドキュメント 第5回 “ノーベル賞会社員” ~科学技術立国の苦闘~』,2019 年2 月17日放送